研究概要 |
輸送機器の軽量構造材料として多用されるアルミニウム(Al)合金では,一般に塑性加工後の熱処理・焼鈍過程で生じる再結晶・粒成長を利用して,その強度と靱性が制御される.従来の知見や経験による組織制御のみでは,既存材料の高性能化や新素材の開発を達成することは難しく,数値シミュレーションを援用したより高精度な組織制御方法の確立が必要とされる.Al合金の再結晶組織を精度良く評価可能な数理モデルの構築を目的とした本研究において,最終年度では,これまでに構築した粒界エネルギーの方位差と面方位の依存性を考慮できるMulti-phase-field(MPF)モデルを用いて純Alの多結晶粒成長解析を行い,電子線後方散乱回折法を用いて調べた純Alの実材料組織の特徴と解析結果を比較し,粒成長の駆動源である粒界エネルギーと異なる駆動源の存在の可能性を検討した. 純Alの多結晶粒成長解析では,分子動力学法に基づく粒界エネルギーの詳細な情報を導入し,方位差の下限値を0.5度あるいは2.0度とする2種類の場合を想定した.前者では,微小な方位差(2.0度未満)をもつエネルギーの低い低角粒界が増加し,後者では,低エネルギーを示すΣ3粒界が増加する傾向を示した.実材料組織では,Σ3粒界の増加傾向が確認でき,後者との定性的一致が確認できた.これより,微小な方位差をもつ低角粒界の粒成長挙動が,粒界エネルギー以外の駆動源に依存する可能性があることを示唆した.上記の低角粒界では,粒界を構成する転位が長範囲応力場を形成することが予想される.実験観察から,長距離応力場が周辺の高角粒界を誘起させ,弾性ひずみエネルギー源となる低角粒界を消失させると考えられ,転位が形成する内部応力が粒界エネルギーと異なる駆動源になり得ることを示唆した.
|