研究概要 |
本研究課題では,性犯罪者の再犯防止の取り組みにおいて重要であることが指摘されている「共感性」に焦点をあて,認知行動論的観点から性加害行為抑止にいたるメカニズムについて検討を行った。性犯罪研究における共感性に関する取り組みは,共感的反応にいたるプロセスについて様々な検討がなされてきた一方で,性加害行為抑止との因果性に関する検討はなされてこなかった。したがって,共感的反応にいたるプロセスを操作可能な変数として明確に定義したMarshall et al.(1995)の共感性理論に基づき,「他者感情認知」,「他者視点取得」,「他者感情体験」,「他者感情体験に対する対処」の4つのステージからなる質問紙を作成し,共感的反応と性加害行為との関連性について,行為の生起頻度を予測しうる概念である「随伴性認知」をとりあげ共感的反応との関連性を記述した。共感性的反応にいたるプロセスの記述と共感的反応と随伴性認知の関係性について,性犯罪者6名,性犯罪以外の犯罪者13名,一般成人男性30名(計49名)に対する調査が完了しており,性犯罪者は,性犯罪以外の犯罪者とは異なり,性加害行為そのものを「快」であるととらえる傾向にあることが確認された。また,性犯罪者は,性犯罪以外の犯罪者と一般成人男性と比較して,性犯罪事件時における被害者体験を軽度にとらえる傾向が認められた。このことから,性犯罪者の性加害行為を「快」であるととらえる傾向は,被害者に対する共感的反応の低さに起因している可能性が示され,性犯罪事件における被害者を手がかりとした認知行動論的アプローチが有用である可能性が示唆された。
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