研究概要 |
被子植物の約3割が、両性花ではなく、性の分化した花をつける。個体による性分化がある植物では、様々な形質に性的二型があるだけでなく、植食者による食害の程度にも性差があることが報告されている.片方の性に偏った食害が生じるのは、植物形質の雌雄差が植食者の適応度に影響し,植物の性に対する植食者の選好性を変化させるためであると考えられてきたが、これについての実証研究は行われてこなかった。また片方の性に偏った食害は、植物の性表現そのものの進化や、性比の偏りを産み出す淘汰圧としても重要であると考えられる. 本研究では、雑居性雌雄異株植物ヒサカキを材料に,植物側の防御の雌雄差とそれに対する植食者の適応を明らかにするための研究を行った。まず、ヒサカキを利用する植食者の野外観察を行い、ヒサカキの雌花の被食害は雄花より少ないこと、ヒサカキの雄花、両性花のみを食害し、雌花を食害しない花蕾専食性ソトシロオビナミシャクがいることを明らかにした。次に、化学分析により、ヒサカキの雌花は雄花より多くの化学防御物質を含むことを明らかにし、飼育実験によって、ソトシロオビナミシャクの幼虫は雌の花蕾を食べると死亡することを明らかにした。 また、ヒサカキの花蕾の雌雄差はソトシロオビナミシャクだけでなく、葉と花蕾を利用するナカウスエダシャクの適応度と、花蕾の摂食程度にも影響を与えることを飼育実験で明らかにし、花蕾専食者でも、花蕾に虫瘤を形成するタマバエの1種では雌雄の花蕾を同等に利用していることを野外観察で明らかにした。 本研究により、(1)ヒサカキの花蕾では雄に偏った食害が生じていること、(2)ヒサカキの花の防御に雌雄差があり、雌花がより防御されていること、(3)ヒサカキの花蕾の雌雄差は植食者の適応度に影響を与えることが明らかになった。
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