研究概要 |
2010年度に実施した研究は,言語学のみならず,認知科学においても重要な知見を提供するものであった.まず報告者は,前年度までに得られたデータから,慣用句の表現パターンを抽出し,さらにコーパス上からその慣用句の拡張用法を網羅的に収集し,それらの傾向を分析した.先行する研究では,このような形式的な傾向を十分に確認していなかったが,報告者によってこの傾向が示されたことで,慣用句のみならず,ことわざなど他の定型表現との相対的な違いが明確となった.同時に,先行研究で十分になされなかった「形式を統制した上での分析」を可能とした. 加えて報告者は,人間の慣用表現をはじめとする定型表現の発話に関する談話的な機能についても考察を加えた.人は慣用句などの定型表現を意図的に拡張することにより,文脈への適応のみならず,聞き手との相互認証の機能も担っていると主張した.この考察の結果は,認知科学会の27回年次大会で大会発表賞を受賞し,認知科学の発展に貢献する研究であると認められた.慣用表現とことわざの違いなど,相対的な関係についても記述と分析のみならず,その拡張用法による形式的な変化および意味的な変化を分析するための手法とその認知的な動機付けのモデルを完成形へと近づけた. これまでの研究を土台として,対照言語学的なアプローチも手がけた.来年度の成果となるが,英語のデータを用いた分析では,今年7月に開催される国際認知言語学会の口頭発表に採用された.
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