研究概要 |
カーボンナノチューブ(CNT)は,バイオ医療や電子デバイス,ポリマー複合材料や量子細線といった非常に広範な分野での応用が可能であることから,有用な次世代材料の一つとして注目を集めている.これらを実現するためにはCNTの形態(長さや直径)制御が求められる-例えば,細胞レベルの薬剤カプセルとして利用するには短いものが要求される-が,現在のCNT合成技術では短さのコントロールはほとんど行われていない.これまでに,液相アーク放電をベースとして,スクロース溶液中から炭素を供給することで長さ20nm程度の短いCNTを合成してきた.しかしながら,生成量が少ないことや生成物中に不純物が混入してしまうことなどの課題があった. 前年度の結果から,液中の放電環境にマイクロバブルを導入することで,金属微粒子が内包したCNTの合成量が大幅に上昇することが分かった.本年度は,さらなる生成効率の改善を目指し,導入ガス種と内包効率との関係を検討した.また,金属内包CNTの一段合成を目指し,パルスアーク放電法による合成およびパルス条件の最適化をおこなった.パルス放電に着目したのは,不純物の減少が期待できるためである. 結果として,HeやArなどの不活性ガスのマイクロバブル環境下では,金属内包CNTの合成量が,酸素マイクロバブル環境下と比較して2倍以上になることが分かった.活性ガス環境下では,分解した炭素前駆体が酸化反応してしまい,CNT形成に十分な炭素を供給出来なかったと考える.一方,パルスアーク放電法を用いたケースでは,様々なパルス条件で合成したCNT生成物を透過型電子顕微鏡で調査した結果,パルス幅:5ms,Duty比:50%の場合で全合成量の30%に金属微粒子の内包が確認された.これは,パルス条件で決定される放電状態がCNT生成に影響を及ぼしているためだと考えている.しかしながら,X線回折や局所エネルギー分散X線回折の結果は,内包物質が酸化していることを示した. これらの結果は,本研究課題の達成のみならず,CNTの応用に向けた重要な知見になると考えられる.
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