本研究は、シリカスケールを基に高度好熱菌によるbiosilicificationの分子機構を無機化学、微生物学の両面から解明することを目的とした。まず、シリカスケール中の優占株であるThermus thermophilus TMYは400ppm以上の過飽和条件下でのみシリカ沈殿を生じ、同条件下で特異的タンパク質の生産が認められた。本タンパク質はシリカ誘導性タンパク質(Sip)と命名した。Sipをコードする遺伝子およびその周辺領域の塩基配列を決定した結果、Sipは鉄結合性ABCトランスポーターのsolute-binding proteinと高い相同性を示した。次いでsip遺伝子の転写開始点を決定し、プロモーター部位を推定した。次に、過飽和シリカ添加培地および鉄除去培地中でそれぞれ培養した菌体からmRNAを精製し、ノーザンハイブリダイゼーション及びqRT-PCRを行ったところ、sipはモノシストロニックに転写され、両条件で著しい転写誘導が認められた。このことから、sipの発現は、溶在するコロイド状シリカ表面に鉄イオンが吸着して生じる鉄欠乏を端緒とすることが示唆された。また、Sipの機能を解析するため、大腸菌内での大量発現系を構築した。sipを保持する組換え大腸菌は、過飽和シリカ存在下でシリカ沈殿を生じ、Sipがシリカ沈殿に直接関与することが明示された。上記の結果から、Thermus属細菌のbiosilicification機構を次のように推察した。即ち、過飽和シリカの存在又はそれに由来する鉄飢餓を端緒とし、迅速にsipが転写誘導され、細胞表層にSipが著量生産される。Sipにより細胞表層への鉄の集積が促進され、シリカの吸着サイトとして機能する。即ち、Thermus属細胞は鉄イオンを含む金属陽イオンを能動的に凝集しシリカ沈殿を促進する。
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