研究概要 |
原始惑星系円盤や進化末期の恒星から放出される高温ガスから凝縮して形成される1μm程度の固体微粒子(ダスト)は,惑星の原料物質であり,銀河における金属元素のキャリアである.また鉱物の晶癖は,その形成過程や条件を反映し変化し,赤外スペクトルの違いとして観測されうる.本研究課題は,鉱物の晶癖に着目し,実験,観測を組み合わせて,星周環境におけるダストの形成過程・条件を推定することを目的とする.隕石中に含まれるプレソーラー粒子は,太陽系のものとは大きく異なる同位体異常を示し,太陽系形成以前に進化末期の恒星周囲の質量放出風から直接凝縮して形成したと考えられている.当該年度は,星周凝縮物の晶癖を明らかにすることを目的に,高温(1700-1500℃)・低圧(~10^<-5>Pa)の星周条件下におけるダスト(フォルステライト-コランダム)凝縮-蒸発実験を行った.特にコランダム凝縮実験により,星周条件におけるダスト凝縮異方性を初めて定量的に示したことは,ダストの赤外スペクトルとダスト形成条件を結びつけ,直接観測することのできないダスト形成条件を赤外分光観測から推定可能にしたという点で大きな成果といえる.また,実際の天文観測データと一年度二年度におこなったダストの赤外吸収スペクトルの粒子形状依存性,凝縮・蒸発異方性をあわせることで,晩期型星ダスト形成過程を推定し,隕石中プレソーラー粒子の表面構造・結晶構造との比較から,晩期型星から初期太陽系までの星周ダストの進化を推定した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フォルステライト凝縮異方性を決定するための前実験であった,コランダムの凝縮実験が予想以上に成功し凝縮・蒸発異方性を定量的に決定できたこと,また,隕石物質の分析を,実験・天文観測を平行して行うことで,晩期型星周ダストの形成に加えて初期太陽系までの進化を議論可能にしたため,本研究の本質的目的である星周ダスト形成条件の推定および宇宙鉱物学の展開という点において,申請時に期待された成果を上回ったといえる。
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