平成22年度も、前年度に引き続き、研究課題「プルーストの作品における間テクスト性」について研究を進めた。本研究の基礎となる1テクストの文体論的分析、2プルーストが読んでいた可能性のある過去から同時代にかけての文学批評と文学作品の通時的調査、3小説の草稿調査のうち1と2を中心に研究を進めた。ソルボンヌ・パリ第四大学招聘研究員としてフランスに一時滞在し、派遣先大学の図書館やフランス国立図書館での資料調査によって、データを蓄積した。その成果を論文「『失われた時を求めて』におけるゴンクール兄弟の模作-登場人物コタールをめぐって-」として、学術誌『エチュード・フランセーズ』に発表した。本論では、プルーストの先行作品の中でも、プルーストが模作として自作に取り込んだゴンクール兄弟の作品を分析対象とした。具体的には、小説中ですでに「私」の視点から描かれている登場人物、医者コタールがゴンクール兄弟の『日記』の模作では、どのように描かれているのか、それぞれの場面の文体を比較し詳細に分析することで、各々の文体がいかなる世界観を表現しているのかという問題を考察した。二つの対立する文体の違いを追っていくことで、プルーストがその文学的表現において、どのようにゴンクール兄弟を乗り越えていったのか、そしてプルーストがどのような文学作品を目指したのかということを明らかにすることができた。同時に、プルーストが模作によって示したゴンクール兄弟についての実践的批評がゴンクール兄弟の作品に関する同時代の批評と一致していることを指摘し、プルーストの作品がいかに同時代の批評と関連が深いものであるかを示した。
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