研究概要 |
本申請研究を通じて申請者は,特定の制度(人々の行動そのものが作り出す安定した誘因構造)のもとでの適応戦略の反映として文化に特有とされる信念・行動群を捉えると同時に,社会的適応のための道具としての文化的信念や,そうした信念に従う行動そのものによって,人々が適応すべき安定的な誘因構造(すなわち制度)が生成され維持されるという過程の分析を進めてきた。最終年度である平成23年度には,本申請研究の目的をかなえるために三年間にわたり実施してきた個別研究の成果を総括するとともに,その成果をもとに,人間の心の働きや行動と社会的・文化的適応環境とのマイクロ-マクロ関係について,従来の研究とは異なる観点からの説明を展開するに至っている。平成23年度に実施した個別研究の成果の一つに,日本人の集団主義的な信念に焦点を合わせた日米比較研究があるが,この研究の成果は集団主義的な制度に身を置く人々の適応すべき適応環境が,集団主義的な信念を共有する人々が生み出す行動と,その行動の集積として個々人の前に立ち現れる誘因(より具体的には,集団主義的に振舞うことによって生じるまわりの人からの反応群)により生成され維持される過程を明らかにしている。本申請研究の一連の成果は,制度への適応という観点から心の働きや行動の文化差を分析する枠組みを提案するものであり,心理学,とくに文化心理学の分野に対して,重要なインプリケーションを有するものと考えられる。現在申請者は,これらの得られた成果を国際誌へと投稿する準備を進めている。
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