研究概要 |
動物の胚発生の過程で中胚葉と内胚葉は中内胚葉細胞から作られる。前年度までの研究で、脊索動物のホヤでは、中内胚葉細胞が極性化されており、将来中胚葉細胞になる側にNot mRNAが局在し、それが中胚葉細胞に受け継がれることで中胚葉と内胚葉の運命が分離されることを明らかにした。中内胚葉細胞に極性が生じる機構Not mRNAの局在が維持される機構の二つに着目した。中内胚葉細胞を極性化する機構については、極性を作るのに重要な因子を同定した。PI3Kの機能を阻害した胚では、Not mRNAが細胞の中央に局在し、中胚葉と内胚葉の両方の細胞に均等に分配され、運命が分離しなかった。PI3Kの抗体を作成し、免疫抗体染色を行ったところ、PI36とその産物である、PtdIns(3,4,5)P3の両方が将来の中胚葉側に局在していた。PI3K活性の偏りを乱すために、PtdIns(3,4,5)P3を分解するPTENの機能を阻害したところ、Not mRNAの局在が乱れ、運命分離が起こらなかった。PI3Kを過剰に発現させた胚でもNot mRNAの局在が阻害された。PtdIns(3,4,5)P3を中内胚葉細胞に注入したところ、Not mRNAは中胚葉側ではなく、細胞の中央に局在した。これらの結果は、PI3Kおよびその活性の局在が極性を作るのに重要であることを支持している。 Not mRNAの局在に必要なmRNA結合因子を同定するために、Yeast three hybrid法により、20の候補因子を得た。2つについては機能阻害した胚でNot mRNAの分配が異常になった。1つの因子について抗体を作成して中内胚葉細胞における局在を観察したところ、細胞核と中胚葉側の細胞表層付近にシグナルが観察された。現在、これらの因子の機能と局在を検証する作業を継続している。
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