研究概要 |
本年度の研究成果は主に以下の2点が挙げられる。 (1)分裂酵母CCAAT結合転写複合体サブユニットPhp2欠損が引き起こす経時寿命延長効果の解析 Php2欠損による経時寿命についてその理由のいくつかが明らかになった。解析の結果、Php2欠損では経時寿命の延長だけではなく、一般的に分裂酵母の培養に用いられる最少培地EMM培地ではほとんど生育しないことがわかった。そして、この培地における生育不良は炭素源であるグルコースの量を増やすことで回復することがわかった。また、この欠損株では呼吸に欠陥を示すことを確認した。そして、より具体的なデータとして、Php2転写因子は呼吸に関連する遺伝子cyc1^+(シトクロムcをコードする遺伝子)、rip1^+(電子伝達系複合体IIIサブユニットをコードする遺伝子)の上流配列に結合し、直接転写制御を行っていることがわかった。このように、どうやらPhp2は呼吸に欠陥を持つため、細胞は上手くエネルギーを得られないようだ。現在、このエネルギー生産の欠陥と寿命延長について論文を作製する方針である。 (2)Eclタンパク質によるhsr1^+遺伝子の発現誘導メカニズムの解析 このテーマの解析結果を(Ohtsuka et al.,2012)の論文として発表した(詳細は13.研究発表にて)。これまで高発現により分裂酵母の経時寿命を延長させるが、機能の不明な因子ecl1^+,ecl2^+,ecl3^+に関して解析を行ってきた。解析の結果、Ecl1ファミリー遺伝子を高発現させると性分化に関わる遺伝子、ストレス応答に関わる遺伝子などの発現を上昇させる。そして、分裂酵母において新たに6つの遺伝子stel1^+、spk1^+、lsd90^+、rsv2^+、hsp9^+、hsr1^+を高発現することで経時寿命の延長を引き起こし、これら遺伝子はEcl1ファミリー遺伝子の高発現で発現が上昇することを報告した。さらに、Ecl1ファミリー遺伝子による経時寿命延長は転写因子Hsr1に一部依存することを発表した。そして、Ecl1ファミリー遺伝子による寿命延長は、このHsr1のさらに上流の転写因子Prr1に大きく依存することを報告した。
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