研究概要 |
本研究では,探査機データに基づいた木星雲層構造及び雲物理の理解を目的としており,具体的にはカッシーニ探査機の撮像データ(青色光:455nm,近赤外光:750nm)を用いて,表層雲の顕著な特徴である帯(Zone)と縞(Belt)における雲粒子の散乱特性(散乱位相関数)について調べた. 1.散乱位相関数の導出アルゴリズムの開発: ミー散乱理諭を雲粒子に適用し放射伝違計算を行う事により,雲粒子の屈折率n_rと粒径rの最適解を求めた.まず近赤外画像を用いて,Zoneにおける雲粒子の散乱位相関数を調べたところ,高屈折率(n_r=1.85)物質からなる粒径の小さい雲(r=0.3nm)が最もデータを再現することが分かった.得られた屈折率は,表層雲候補であるアンモニア氷(n_r=1.42)のそれに比べ著しく高い値であり,アンモニア氷が分光的に見つかっていないという先行研究を支持する結果である.先行研究で提案されている「光化学物質によるアンモニア氷雲のコーティング説」に基づき,得られた屈折率は,この光化学物質の特性を示していると結論付けた.ここまでの結果は国際論文に投稿中である. 2.ZoneとBeltにおけるエアロゾルの散乱特性の比較: 1で得られた手法により,ZoneとBeltにおける雲粒子の散乱特性の比較を2波長で行ったところ,有意な違いは見られなかった.ZoneとBeltの模様の違いは,雲層における未知の吸収物質の量によってのみ説明可能であった.この吸収物質はZoneよりもBeltに多く存在し,近赤外光よりも青色光で吸収が顕著となる性質があることが分かった. 3.得られた散乱位相関数の妥当性の検証: 今回得られた散乱位相関数はパイオニア10号データを良く再現した.従ってこの散乱位相関数は,先験情報として将来の地上観測・探査機データの解析に広く利用することができるものである.
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