研究概要 |
夏休みに,大学に中学生を集めて歴史の実験授業を実施し,予習時の知識枠組みを提示することの影響について検討を行った。具体的には,授業前に予習を行う際,教科書を読まずに授業目標が提示される群と,教科書を読んだ上で授業目標が提示される群の2群を設定し,4回の授業の理解度を比較した。その結果,授業目標として提示された部分については群間に差は見られなかったが,目標として提示された部分以外の授業理解度においては,教科書を読んだ群が,読まなかった群に比べて高い得点を示した。授業の重要な点について理解を深めるためには,事前に目標を提示することが有効であると考えられるが,本研究の結果から,その部分以外の理解を深めるためには,授業全体に関する知識枠組みも併せて提示しておくことが必要であることが示唆された。 また,高校生とその英語教師を対象として質問紙調査を実施し,予習時の学習方略と授業時の学習方略の関係について,教師の授業スタイルを考慮した検討を行った。その結果,授業で扱う英文について,予習時に自分なりに単語や文の意味を推測しておくことによって,授業ではメモが多く取れるようになることが示唆されたが,階層線形モデルによる分析の結果,そのような予習時の方略と授業時の方略の関係は,教師の解説量によって調整されることが示された。すなわち,教師が授業中に単語の成り立ちや文の訳し方について詳細な解説を行っているほど,予習時の推測方略が授業中のメモ方略に与える影響は大きく,逆に教師があまり解説を行わない授業の場合,そのような影響は小さくなることが示された。学習者の使用する方略間の関係が,教師の授業スタイルによって異なるという本研究の知見は,学習法研究と教授法研究に新たな接点をもたらす点で意義深いものであるといえる。
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