研究概要 |
本研究は,水中運動時における温熱的快適性の評価手法の開発を目的とし,環境条件に加えて,特に寒冷適応能を含む被験者の特性を考慮した総合的評価を行うことに独自性を有する. 本年度の主な研究成果としては,昨年度実施した実験データに基づき,震え産熱応答の馴化の深部体温特異性について,国際環境人間工学会にて報告し,また,共同研究者と原著論文を執筆し,現在投稿中である.皮膚温のみの繰返し冷却では,入水時の寒冷ショック反応の抑制はみられるものの,深部体温の低下を伴う長時間水浸時の産熱応答の抑制は示されない.一方で,深部体温と皮膚温両方の繰返し冷却では,適応期間に低下した深部体温の範囲に限って産熱応答の抑制が示され,それを下回る深部体温では馴化が見られなかった.これらの結果から,寒冷水浸時の産熱応答馴化の深部体温特異性が示唆された.この他に,比較的温かい水温(26℃)への繰返し水浸が,皮膚血管収縮を強める断熱型適応を起こすが,産熱応答の馴化は起こさないことを原著論文にて発表した.同時に測定した寒冷血管拡張反応(CIVD)は,先行研究に反して,寒冷適応後にCIVD反応の減弱が見られた.さらに,水泳授業時の水温条件と水着条件,形態的特性から運動者の温冷感を推定する快適性予測式に関する原著論文を発表した. 一連の研究から,特に寒冷適応の特性について,適応期間の暴露条件によって,産熱抑制型や断熱型など異なる適応反応を示すことが明らかになった.当初の研究計画でCIVDによる適応能の評価を行う予定であったが,断熱型適応は評価可能としても,産熱応答はCIVDの応答と一致しない可能性が示唆された.これらの知見に基づき,温熱的快適性の評価における適応能の因子の扱いについて,検討を進め,少なくとも産熱応答と皮膚血管収縮応答を別個の因子とする必要があり,適応期間の環境条件や生理応答を考慮する必要性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題に基づいて投稿中の論文を早期に受理されることにより,研究成果を国際的に報告する. 本研究課題の中で特に興味深い成果をあげた,寒冷適応に伴う生理応答の変化について,生理的なメカニズムをさらに突き詰めることにより,アカデミックな発展が期待される.特に寒冷適応期間における環境条件や生理応答に伴う寒冷適応型の違いについては,さらに検証する余地があり,研究報告の少ない産熱亢進型の寒冷適応について検討していきたい,
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