研究課題
特別研究員奨励費
本年度は、研究計画にある流れ効率を最大化する局所的時間発展ルールの中から、定常状態(流れ効率が最大値に収束した状態)の緩和時間が発散するようなモデルを抽出するために、昨年度明らかとなったフラクタル構造からスモールワールド構造への構造的クロスオーバーがダイナミクスにどのような影響を与えるのかについて研究を行った。複雑ネットワークのフラクタル性がSongらによって発見されて以来、スケールフリー・フラクタル・ネットワーク上でのダイナミクスに関する精力的な研究が行われている。ネットワーク上のダイナミクスには、噂の伝播や輸送など興味深い問題が多いが、ここでは最も基本的な拡散現象に焦点をあててその性質を解明する。通常のフラクタル系と同様に、フラクタル・ネットワーク上の拡散現象を特徴づけるには、フラクタル次元Dfだけではなくランダム・ウォーク次元dwやスペクトル次元dsという動的次元が必要になることが明らかにされている。次数の揺らぎの小さい非スケールフリーなネットワークでは、これらの指数はスケーリング関係式ds=2Df/dwによって関係づけられることが既に知られている。本研究では、まず次数揺らぎの大きなスケールフリー・フラクタル・ネットワークにおいてもこのスケーリング関係式が成立していることを明らかにする。二つの決定論的スケールフリー・フラクタル・ネットワーク・モデルに対してスペクトル次元やランダムウォーク次元を数値的または解析的に計算した。その結果、スケールフリー性を有するフラクタル・ネットワークにおいても先のスケーリング則が成立することを明らかにした。次に、パーコレーション転移点近傍におけるネットワーク上の拡散に対する自己回帰確率をマスター方程式を数値的に解くことで計算した。計算された自己回帰確率の時間依存性から、拡散には特徴的時間tが存在し、t《tξではdwやdsにより記述される異常拡散、t》tξではスモールワールド・ネットワークに特有の引き延ばされた指数関数型の拡散となることが明らかにされた。このような動的クロスオーバーは、フラクタル性からスモールワールド性への構造的クロスオーバーに対応するものであり、クロスオーバー時間tは相関長ξまで拡散が広がる時間としてスケールされることが示された。本年度得られた結果は、SOC的な意味で形成されるフラクタルネットワークモデル構築の基礎をなす。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (4件)
Journal of the Physical Society of Japan
巻: 80 号: 10 ページ: 104001-104001
10.1143/jpsj.80.104001
Physical Review E
巻: 82(CD-ROM)