本研究は、低線量放射線照射による自己免疫疾患の病態改善機序を明らかにし、低線量放射線の免疫疾患への可能性を提示することを目的としている。これまでに、低線量放射線照射による各種自己免疫疾患モデルマウスの病態抑制効果を報告し、その病態抑制に制御性T細胞(Treg)誘導が寄与すること、低線量放射線によりTregが誘導される可能性を提唱してきた。 平成22年度は、Tregの放射線感受性を測定、および低線量放射線照射による皮膚移植拒絶反応の抑制効果を検討した。その結果、Tregの放射線感受性は他のT細胞と同等であることが示され、これにより低線量放射線によりTregが誘導されるという可能性が高まった。また、低線量放射線照射による皮膚移植拒絶反応の抑制効果を検討したところ、照射により若干の移植片生着期間の延長が認められたものの顕著な延長は見られず、低線量放射線により皮膚移植拒絶反応の抑制を行うことは難しいと思われた。 さらに、低線量放射線によるTreg誘導メカニズム解明を行った。Treg誘導メカニズムとして細胞外ATPおよびアデノシンに着目した。まず、低線量放射線による脾細胞からのATP放出を認めた。細胞外へ放出されたATPは素早くアデノシンに分解されることから、次にTreg分化過程におけるアデノシン受容体の関与を検討した。その結果、Tregの分化においてアデノシンA2B受容体の関与が示唆された。これらの結果より、低線量放射線により細胞外に放出されたATPがアデノシンに分解され、A2B受容体を介してTreg分化誘導に関与するという新規Treg誘導メカニズムが明らかとなった。 現在、自己免疫疾患の根本的治療法は未だ確立されていないため、本研究は低線量放射線の作用メカニズムおよび有用性を解明することにより自己免疫疾患の予防・治療における医療の発展に大いに貢献し得る大変意義深いものと思われる。
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