本年度は、レジスト膜中における酸の生成過程を極短時間領域(ナノ秒)で検討した。具体的には、レジスト材料に電子線を照射したときに起こる反応過程を観測し、そのダイナミクスについて解明した。 レジストポリマーであるポリ(4-ヒドロキシスチレン)の放射線化学反応初期過程を溶液中および薄膜状態で、ナノ秒パルスラジオリシスにより観測し、両状態においてポリ(4-ヒドロキシスチレン)のラジカルカチオン及びフェノキシラジカルの吸収が観測されるが、固体膜状態ではダイマーラジカルカチオンの電荷共鳴バンドは観測されないことを明らかにした。この結果はポリ(4-ヒドロキシスチレン)がヒドロキシ基間に形成される水素結合により、固体膜中においても脱プロトンが効率的に起こるが、同時に、水素結合により固体膜ではベンゼン環のπ-πスタック構造が制限されることを示唆している。これまでにポリ(4-ヒドロキシスチレン)薄膜中でプロトンと捕捉剤の反応を定量的に測定し、ポリ(4-ヒドロキシスチレン)薄膜中においてもプロトン捕捉に関して常温で平衡が成立していることを明らかにしていた。そのために、これらの結果はレジスト中において、ポリマーラジカルカチオンの脱プロトンにより生成されたプロトンが常温で水素結合ネットワークを介して拡散し、プロトン捕捉サイトにトラップされることを示唆している。 本年度では、これまで溶液中の反応機構から推定されてきた化学増幅型レジストの反応機構を、実際のレジスト薄膜を用いて検討し、化学増幅型レジスト薄膜中でのプロトンの挙動を明らかにしている。
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