研究概要 |
私の研究対象である銀河団からのガンマ線放射は、Fermi衛星によって、未だ有意に検出されておらず、現在のところガンマ線フラックスの上限値として、10^-9~10^-8[photon/cm2/s](100MeV-300GeV)を与えるに留まっている。これは多くの理論研究者が、予想していた値よりも低いものであり、ガンマ線を放射する元となる宇宙線陽子のエネルギー密度が、銀河団において熱的エネルギーの10%以下であることを示している。そこで、今年度私は、フェルミ衛星により得られた上記の結果と、すざくX線衛星によって観測された銀河団の観測データを用いて、銀河団における高エネルギー現象についての研究を行った。 まず前年度から継続していた、すざく衛星を用いて観測した近傍銀河団A3627の解析結果を、投稿論文にまとめた(PASJ 64,16,2012)。この研究では、大質量の銀河団同士が互いに衝突する様子を明らかにしたもので、近傍宇宙の重力進化を議論する上で重要なサンプルになったと言える。続いて、すざく衛星により観測された銀河団の系統的解析を行った。すざく衛星に搭載された2つの検出器、XIS(2-10keV)とHXD-PIN(12-50keV)を用いて銀河団ガスの温度を精密測定したところ、HXD-PINで得られるガス温度が、XISで得られる温度よりも、系統的に高いことが分かった。これは、より高いエネルギーバンドに感度をもつHXD-PINが、銀河団の超高温ガスからの放射を選択的に捉えているためである。また、このような2つの検出器で得られるガス温度の食い違いは、衝突合体の兆候をしめす銀河団で、より発見されやすい傾向にあることが分かった。これは超高温ガスが、銀河団衝突によって生成されている描像を強く示唆する結果であり、銀河団の進化を研究する上で非常に重要な研究成果であると言える。これらの研究結果は、今年度、博士論文にまとめた。また現在、投稿論文にもまとめており、来年度中に発表する予定である。
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