研究概要 |
これまでの研究では,「認知科学」誌における過去3年分のt検定と分散分析の効果量および分散分析の結果に関して,標本効果量と標本検定力を算出し,それぞれの結果の事例を検討した。それに引き続き今年度は,「心理学研究」に掲載された過去2年分の論文におけるt検定と分散分析の標本効果量と標本検定力の分析を行った(鈴川由美・豊田秀樹,「"心理学研究"における効果量・検定力・必要標本数の展望的事例分析」,心理学研究,印刷中)。これらの研究では,t検定および分散分析を中心に,分析結果の解釈と,標本効果量,標本検定力について検討を行い,日本の心理学的研究における検定の使用や解釈についての問題点を明らかにすることができた。その結果,帰無仮説が研究仮説となる検定に関してさらなる研究が必要であることがわかった。このような検定の一つとして共分散構造分析における適合度の検定がある。共分散構造分析は,近年,心理学の研究で利用されることが増えてきているが,カイ二乗値を利用してモデル全体の検定を行うため,通常の統計的仮説検定と異なり,帰無仮説の棄却はモデルを修正しなければならないことを意味する。また検定結果が標本数に敏感に影響を受ける。共分散構造モデルに対する検定力分析の方法はこれまでにいくつか提案されているが,MacCallum,Browne,and Sugawara(1996)では,分析対象のモデルや対立モデルに関してはモデルの特定を行わず,正確なモデル適合の検定以外の検定力分析を行うこともできる。この方法は,RMSEAを用いて非心母数を定義し,帰無分布および対立分布の両方に非心カイ二乗分布を用いて検定力分析を行う方法である。この方法を用いて「教育心理学研究」に掲載されている共分散構造分析を用いた研究に対し検定力分析を行い,このモデルにおける共分散構造分析に対する検定力分析の応用可能性,および限界について研究を行った。
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今後の研究の推進方策 |
検定力に関する研究結果から,共分散構造分析における検定力分析は分析者,さらに査読者にとっても有用な知見を与えることができると考えられる。しかしこれまで提案されている手法は,複雑な手順を踏む必要がある。またその中で必要とされる選択が分析者に委ねられることが多く妥当性の面でも疑問が残る。そのため,実用性を考慮し,適合度指標を利用した検定力分析の方法およびモデルの提案を行う予定である。
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