研究概要 |
糸状菌のストレス応答シグナル伝達経路は、植物病原菌の殺菌剤感受性や病原性に関与する重要な経路であるが、MAPキナーゼの下流で制御されている転写因子や遺伝子に関する研究は進んでいない。研究代表者らは、糸状菌のモデル生物であるアカパンカビを用いて、OS-2 MAPキナーゼの下流で制御されている遺伝子群やそれらを制御する転写因子についての研究を行ってきた。昨年度は、OS-2の下流で制御されている転写因子ATF-1が、分生子特異的タンパク質の蓄積に必須であり、分生子の耐久性に関わることを報告した。本年度は、OS-2の下流で制御されている未知の転写因子の同定を行った。 マイクロアレイ解析の結果から、アカパンカビでは、殺菌剤フルジオキソニルを処理することによって、転写因子ArF-1非依存的にclock-controlled gene (ccg)であるccg-13, ccg-14や分生子柄の形成に関与するphiAなどが誘導される。ccg-13遺伝子のプロモーター欠失解析を行ったところ、上流1,000~1,200bpの範囲にccg-13遺伝子の発現を抑制する転写因子が結合することが示された。この転写因子を同定するために、ストレプトアビジン磁気ビーズを用いてDNA結合タンパク質を精製したところ、転写因子regulator of conidiation-1 (RCO-1)が同定された。rco-1破壊株は,無処理区でccg-13, ccg-14, phiA遺伝子の発現量が,フルジオキソニル処理した野生株と同程度の発現量を示したことから,RCO-1は,ATF-1非依存的に誘導される遺伝子群を制御する転写因子であることが明らかになった。 糸状菌のストレス応答と分生子形成は、前者がストレス応答MAPキナーゼ、後者がプロテインキナーゼAによってそれぞれ独立に制御されていると考えられてきた。本研究は,一見独立と思われてきたこれらのシグナル伝達経路が,転写因子を介してクロストークしていることを示唆している。
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