研究概要 |
本研究は、日常生活で使用されるウソやユーモアが社会的に機能するときに、聞き手の心的機構(認知・感情過程)に与える影響について明らかにすることを目的としている。過失により他者に不利益を与えてしまった状況(e.g.,遅刻)において、人は他者からの罰(e.g.,叱責)を避けるために弁解をすることがある。本年度は弁解としてのユーモアが聞き手の認知(おもしろさの程度)を媒介して感情調整(ネガティブ感情の抑制・ポジティブ感情の促進)を行っている可能性に着目し、ユーモアに関わる立場(ユーモアの話し手・聞き手)とユーモアの聞き手の状況(聞き手の不利益が大きい状況・不利益が小さい状況)を考慮した実験を行った。その結果、ユーモアに関わる立場に関係なく、弁解としてのユーモアは聞き手のおもしろさの認知を媒介することで過失に対するネガティブ感情を抑制し、聞き手からの罰を避けていることが明らかになった。また、ユーモアは聞き手のおもしろさの認知を媒介することでポジティブ感情を促進するが、罰の回避に与える影響は小さいことが明らかになった。そして、聞き手の不利益が大きい状況では不利益が小さい状況に比べて、ユーモアのおもしろさの程度が低く認知されることが明らかになった。ただし、ユーモアの聞き手の不利益が大きい状況においても、おもしろさが高く認知されれば、感情調整が行われ、聞き手からの罰を回避できることが明らかになった。これらの結果から、ユーモアに関わる立場に関係なく、弁解としてのユーモアは聞き手の認知を媒介し感情調整を行うことで社会的に機能することが示された。また、聞き手の状況(e.g.,不利益の大きさ)によっておもしろさの認知は影響を受けるが、この認知を聞き手に生じさせることができれば感情調整が行われ、ユーモアは社会的潤滑油として機能することが示された。
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