研究概要 |
本年度は完全多部グラフに対応する2項式辺イデアルの研究を行った.2項式辺イデアルはヘルツォク・日比を中心とする研究グループと報告者によって独立に導入された新しい研究対象で,代数統計学などとの関連も踏まえて現在活発に研究が進められている.具体的には,(1)素因子の具体的記述と非混合的となる場合の特徴づけ,(2)剰余環がコーエン・マコーレー性となる場合の特徴づけ,(3)形式的冪と通常の冪の一致,(4)剰余環のF純性などについて研究を行った.主たる道具は組合せ論的手法による.特にプリュッカー関係式と呼ばれる関係式(これはもともと多項式環のASL構造から発見されたもので、完全グラフの2項式辺イデアルである行列式イデアルの研究に重要な役割を果たす)が2項式辺イデアルの研究においても重要であることが明らかになった.ただし辺が極端に少ないグラフ(例えば,木は辺が最も少ない連結グラフである)の場合には,辺の少なさゆえにさまざまな関係式が有効に働かない,すなわち変形の自由度が少ないことが多く,新たなアイデアが必要であると思われる.私見では,その難点の本質は多角形の場合に存在し,この場合を攻略することが一般の場合への足掛かりになると考えている.実際,完全多部グラフの場合に成立していた剰余環のF純性が五角形の場合に崩れることが確認されており,これらの現象の理由を明らかにするべきと考える.
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