研究概要 |
これまでにほとんど研究が行われていない有機遷移金属錯体の素反応「β-ホウ素脱離」に注目し、この素反応過程の精査とこれを鍵とする触媒反応の開発を目的として研究を行った。 本年度はまず、交付申請書の「研究実施計画」に記載した「(i)遷移金属-ホウ素結合への不活性多重結合の挿入」に関し、β-ホウ素脱離の逆反応である遷移金属-ホウ素結合間への不飽和炭化水素の挿入反応に関する知見を得るために、様々な不飽和炭化水素を用いて検討を行った。その結果、パラジウム触媒の存在下、様々な置換基を有するピリジンに対してシリルボランの付加が効率的に進行することを見出した。エステルやニトリル等の官能基も本反応において許容されること、2位や3位に置換基を有するピリジンでは1,4-付加が進行し、1-ボリル-4-シリルー1,4-ジヒドロピリジンを与えるのに対し、4位置換のピリジンに対しては1,2-付加により1-ボリル-2-シリル-1,2-ジヒドロピリジンが生成することが明らかとなった。複素芳香環の環内不飽和結合の挿入反応は通常困難であるが、本反応では窒素-ホウ素結合形成が鍵となって挿入反応が効率的に進行したと考えられる。この知見をふまえ、次に、「(ii)含ホウ素反応剤の検討」に関し、他のホウ素反応剤について検討を行った。その結果、ロジウム触媒の存在下、ピナコールボランがピリジンへ位置選択的に付加する1,2-ヒドロホウ素化を見出した。 以上、本年度の研究により遷移金属触媒を用いるピリジンに対する種々のホウ素反応剤の付加反応を開発した。これらの反応ではホウ素-窒素結合の形成を鍵とする遷移金属-ホウ素結合間への効率的な挿入反応が進行していると考えられ、その逆反応であるβ-ホウ素脱離の制御に関する有用な知見が得られた。
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