研究概要 |
本年度はDNA修復,組換えに関与するDNA-タンパク質複合体構造とその機能動態解析を進めた.相同組換えはDNA二本鎖切断の修復における主要な経路である.相同組換えの過程では,相同性のある部分の検索が起こり,切断されたDNA分子の末端が相同な二本鎖DNA鎖に侵入することで,Holliday Junction(HJ)とよばれる鎖交換構造が形成される.B.subtilisのHJ解消過程においては,branch migrationを担うRuvBとHJ解消酵素RecUが主役となる.これらのタンパク質とHJ構造を有するDNAとの複合体構造を原子間力顕微鏡(AFM)により可視化解析することにより,(1)RecUの結合によってHJの構造に変化をもたらすこと,(2)RuvBは単体ではHJ構造へ結合せず,RecUがHJへ結合したのち,そこへリクルートされることを示すデータを得た. 真核生物における相同組換えにおいてはクロマチンリモデリング因子Swi2/Snf2タンパク質であるRad54がキータンパクと機能することが知られている.溶液中におけるRad54とDNA鎖との相互作用を高速液中AFMにより一分子レベルで経時観察・可視化解析することで.(1)ATP非存在下においてもRad54の単量体はDNA鎖の非特異的部位への解離と結合,DNA鎖上の一次元拡散運動を組み合わせながら,DNA上をランダムに移動しうること.(2)DNA鎖に結合したRad54は,更にオリゴマーを形成することで,DNAのループ構造をつくること.(3)このループ構造にATPが供給された場合,Rad54はDNA鎖を一方向へ引っ張り.DNA鎖のトランスロケーションを起こすことが示唆された. これらの結果はDNA分子とタンパク質の相互作用が織り成す機能的な複合体構造の形成過程,およびDNA修復,組換え反応における分子の作用機序モデルの考察を可能とするものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成21年度から平成23年度までの3年間において,再構成ヌクレオソーム構造や制限酵素,RNAポリメラーゼ,DNA修復酵素,クロマチンリモデリング因子などの溶液中機能動態観察を行い,それらの成果として,4報の学術論文を発表することができた.
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今後の研究の推進方策 |
高速液中AFMで1分子の機能解析を行うためには,対象とする分子の機能と動きを維持しながらも,観察用のマイカ基板にそれらを吸着させなければならない.複数種の分子が担う反応を観察する際には,特定の分子を基板上に強く吸着させ,他の分子は弱く吸着させるなど,選択的な吸着が要求される.実験を進行していくうちに,再構成ヌクレオソーム上における酵素反応をAFMで観察するためには,観察試料を載せる基板そのものを工夫する必要があることがわかってきた.これまでは,マイカ基板のアミノ化などの化学修飾に頼ってきたが,ストレプトアビジンの二次元結晶や脂質の二重膜の導入を検討している.
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