研究概要 |
本年度は,まず相平衡条件を算出するために最も効率の良いと言われているギブスアンサンブルモンテカルロシミュレーションの高速化に着手した.このシミュレーションの計算時間の大半は,静電ポテンシャルの計算に費やされるため,IPS法と呼ばれる新規計算手法とグラフィックカードと呼ばれる消費者向けの低価格かつ高性能なハードウエアを用いて高速化を試み,'結果として提案手法が高速かつ高精度で実用的であることを見出した(Intemational Conference on Computational Science ICCS 2011). 次に,メタン・ネオヘキサン・水系の界面において生成することが期待される結晶相(メタンハイドレートと氷)の界面物性を算出した.これには,長時間・大スケールの大規模分子動力学シミュレーションを使用した.その結果,これまで実験から正確な見積もりが困難だった固/液相間の界面張力の見積もりに成功し,界面張力の温度・圧力条件への依存性などを明らかにした(7th International Conforence on Gas Hydrates).また,シミュレーションにおいて固/液相平衡条件を算出するには,これまで長大な計算時間を必要としてきたが,短い計算時間で正確かつ安定して推測する方法を検証・確立した.それにより,これまで何種類も提案されてきた水のパラメータの中でもっとも実験に近い相平衡条件を与えるパラメータを特定し,また融点の圧力依存性を明らかにした(分子シミュレーション討論会学生優秀発表賞受賞). また,メタン・水系において,実験では測定が極めて難しい,高圧条件下での分子スケールの界面の挙動を明らかにした.その結果,これまで実験結果を解釈するために導入されていた無限希釈近似の妥当性を示した.また,メタンが,常温で3 MPa以下の低圧条件では圧力に比例して水表面に吸着し,吸着する位置が水表面に対してほとんど動かない,という理想的な吸着挙動を示すことを明らかにした(The Journal of Chemical Physics).
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