本研究課題の目的は、ベルクソン哲学の通時的解釈を通して、これまで十分な光が当てられてきたとは言い難い『道徳と宗教の二源泉』(以下、『二源泉』)を主要な対象として取り扱い、そこで語られる「開かれた社会」の備える社会哲学的射程を明らかにすることである。本年度は、日本学術振興会による「優秀若手研究者海外派遣事業」の助成を得て、フランスに渡航し、トゥールーズ・ル・ミライユ大学のピエール・モンテベロ教授の指導のもと、一年間研究を行う運びとなった。モンテベロ氏はベルクソン哲学のみならず、ドゥルーズやタルド、シモンドンらの哲学を主要なフィールドとする研究者であるのだが、本研究課題の主要な対象である「開かれた社会」という概念は、まさにベルクソンが『創造的進化』において完成させた自然哲学が欠かすことのできない哲学的な前提とされており、自然哲学が社会哲学へと通じる理路を明らかにすることは本研究にとって重要な課題である。こうした観点から、昨年度より着手していた個体性と共同性の連関を軸とする『二源泉』読解を継承しつつ、モンテベロ氏のもとでは、さらにその背景に存する自然哲学とそれらの問題系との接点を焦点化する研究が進められた。具体的には、『創造的進化』と『二源泉』の連関について、および、ベルクソン哲学と親近性を持ち、なおかつ自然哲学を個体性の問題へと方向づけているように見られる哲学者たち、すなわちシモンドンやドゥルーズ、タルドらの哲学についての読解・考察が行われた。以上のように、今年度は在外研究を経ることによって、フランスの研究環境から刺激を受けつつ、十分な進行が遂げられたように思われる。
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