研究課題/領域番号 |
09J05941
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研究種目 |
特別研究員奨励費
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 国内 |
研究分野 |
生物物理・化学物理
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
打田 正輝 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2009 – 2011
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研究課題ステータス |
完了 (2011年度)
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配分額 *注記 |
2,100千円 (直接経費: 2,100千円)
2011年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2010年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
2009年度: 700千円 (直接経費: 700千円)
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キーワード | 強相関電子系 / 金属絶縁体転移 / 酸化物高温超伝導体 / 角度分解光電子分光 / X線吸収分光 / 共鳴X線散乱 / 電荷秩序 |
研究概要 |
擬二次元層状ペロブスカイト型Ni酸化物R2-xSrxNiO4(R=希土類元素)は、高温超伝導Cu酸化物と対照的な物質であり、その電子構造の共通点・相違点に古くから興味が持たれている。本系は多彩な電荷スピン軌道秩序相が見出される系としても有名であり、低Srドープ域においてストライプ型の電荷・スピン秩序相(x~1/3)、チェッカーボード型の電荷秩序相(x~1/2)を示し、それらの融解を経てx~1においてモット転移を示すことが知られている。前年度・前々年度の研究により、転移近傍組成ではx2-y2軌道由来の大きなホール的フェルミ面が存在し、(pi,0)付近の角度分解光電子スペクトルが0.2eV程度のはっきりとした擬ギャップ構造を示すことが明らかになった。この振る舞いはアンダードープ系のCu酸化物で共通して見られる大きな擬ギャップ構造と非常によく類似しており、その有力な起源としてx2-y2軌道におけるチェッカーボード型電荷相関が考えられている。しかしながら、LDA計算で予測されている残りの電子ポケットの存在、(pi,0)近傍における詳細なフェルミ面の形状、仕事関数に依存する実際のフェルミ面の大きさ等は明らかになっていなかった。今回既に7eVレーザーによる高分解能角度分解光電子分光測定に成功していたEu0.9Sr1.1NiO4について、新たにSPring-8(BL-17SU)にて軟X線を用いた3次元角度分解光電子分光実験を行うことで、kz方向を含む詳細な三次元フェルミ面構造が明らかになり、ガンマ点近傍に存在する非常に小さな電子ポケットの存在が確認された。また、対称点における軟X線の偏光依存性を測定することで、この電子ポケットがLDA計算の予測する通り3z2-r2軌道由来のものであることも確認された。x2-y2軌道由来の大きなホールフェルミ面については、kz方向に弱いワーピングを示すことが明らかになった。本発見は層状ニッケル酸化物系において3z2-r2バンドがx2-y2バンドのすぐ近くに位置することを実証しており、このようなフェルミ面近傍の多バンド・多軌道性が高温超伝導の発現に強く不利に働いている可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
擬二次元層状ペロブスカイト型ニッケル酸化物について、前年度までの成果に加えて新たに軟X線角度分解光電子分光実験を行い、詳細な三次元フェルミ面構造・軌道状態を明らかにしたほか、金属絶縁体臨界組成域において有効質量がほとんど増大を示さない一方で、擬ギャップ構造の発達とともに有効キャリア数が顕著に減少する振る舞いを観測した。これは、面内チェッカーボード型電荷相関による擬ギャップ構造の発達が、運動量に強く依存する形でコヒーレントキャリアを抑制し最終的に金属絶縁体転移を引き起こしていると解釈される。高ドープニッケル酸化物における一連の成果は今後の超伝導物質の設計・研究をも強く推し進めていくと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後、ヘリウム放電管を励起光に用いた角度分解光電子分光を行うことで、擬ギャップの詳細な運動量依存性を明らかにすることが出来ると期待される。また、擬ギャップ構造の温度依存性・ホールドープ量依存性を角度分解光電子分光によって直接明らかにすることも重要であると考えられる。
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