種多様性に関する知見の不足している、日本産地下生菌の分類学的・生態学的・進化学的知見の蓄積を目的として、イグチ科ヤマイグチ属との共通祖先から派生した地下生菌を対象に、形態学的・分子系統学的検討に加え、子実体の香気成分分析による化学分類学的検討を試みた。 1.Octaviania属の分類:本属菌はこれまでに日本からは1種が報告されていたが、核およびリボソームDNA複数領域データセットによる系統解析を行った結果、日本国内に種レベルの系統が少なくとも12系統存在することが新たに確認された。そのうちの4系統は形態的・生態的に識別が極めて困難な隠蔽的系統であった。更に、これらの隠蔽的な系統について、形態学的検討のほか、生物地理学的検討およびDNAデータに基づく系統ネットワークを用い、これらが互いに独立した隠蔽種であると結論付けた。 2.Chamonixiaの分類:分子系統解析および形態学的検討の結果、アジアおよびオーストラレーシア産本属菌は属のタイプ種と異なる祖先から進化したことが示され、新属Rosbeeva T.Lebel & Orihara、新組み合わせ1種および日本産2新種の記載を含む論文を現在投稿中である。 3.上記の地下生菌および近縁の地上生菌の子実体を用い、ガスクロマトグラフィーおよびマススペクトロメトリーによる成分分析を行った。その結果、各地下生菌の系統ではマツタケオールが共通して検出されたが、近縁の地上生イグチ類では同物質が検出されなかった。しかし、本物質はきのこ類に広く含まれる物質であり、本研究において供試された地下生菌の特有な香気には、他の微量成分も大きく影響している可能性がある。今後、これらの微量成分をより詳細に分析し組成を明らかにすることで、化学分類への応用だけでなく、ヤマイグチ類における地下生化と香気物質との進化学的関連性や生態学的意義の解明に繋がることが期待される。
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