研究概要 |
非コンパクト多様体上のシュレディンガー方程式の散乱理論について研究した. ユークリッド空間上のシュレディンガー方程式やその散乱理論については多くの研究がなされてきた.近年,非コンパクト多様体上のラプラシアンをシュレディンガー作用素とする散乱理論が研究されている.ユークリッド空間は極座標表示を用いると球面と半直線の直積として表すことができ,球面の大きさは動径座標と比例して円錐のように広がるととらえられる.一般に非コンパクト多様体であって,漸近的に錐型の無限遠境界を持つ多様体を散乱多様体と呼ぶ. 私は,非コンパクト多様体で,漸近的に多項式増大する無限遠境界を持つ多様体を考察した.長距離型摂動を持つ場合にムール理論を適用し,極限吸収原理や放射条件評価を得た.加藤のなめらかな摂動理論を用いることで,短距離型の摂動の場合に1空間の波動作用素の存在および完全性を証明した.さらに境界多様体と実軸の直積上の1次元自由シュレディンガー作用素との間で2空間の散乱問題を考えた.このときは,無限遠境界の増大度が大きいときは1次元の短距離型の散乱理論,増大度が小さいときには1次元の長距離型の散乱理論を用いることで,無限遠境界の増大をポテンシャルによる摂動のようにしてあつかい,波動作用素の存在と完全性を示した. 最後に,漸近的に多項式増大する無限遠境界を持つ多様体で,その増大度が錐型よりも真に大きいとき,散乱行列が波面集合を不変にすることを示した.
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