研究概要 |
本研究は,ランダムコイル-二重ラセン構造変化という分子レベルの挙動を利用して順次階層を上げることで運動機能性物質を構築することを目的としている.本年度は,分子レベルの現象をマクロな運動に結び付けるために,ヘテロ二重ラセン分子による集合体形成を調べた. エチニルヘリセンオリゴマー四量体/五量体を用い,直鎖状デシルオキシカルボニル側鎖と分岐状4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-1-ペンチルオキシカルボニル側鎖を有するオリゴマーを用いた三種の組み合わせを用いて繊維・ゲル形成を比較した.三種の組み合わせはいずれもトルエン中で繊維状集合体を形成してゲル化し,ゲル化濃度などの性質は側鎖構造によって調節可能であった.ジエチルエーテル中では,三種の組み合わせはいずれもシクルを形成し,側鎖構造の組み合わせによって大きさを調節することが可能であった.透過電子顕微鏡(TEM)によって求めたベシクル膜厚は約2nmであり,これはMacroModel 8.6を用いて計算化学的に求めたヘテロ二重ラセンの高さ1.9nmとよく一致した.また,ゲルおよびベシクルはヘテロ二重ラセン形成時と類似のCDおよびUV-Visスペクトルを与えた.これらの結果から,ヘテロ二重ラセンが側面方向に会合して単分子膜を形成し,湾曲することで繊維状およびベシクル状集合体を形成すると結論した.これは,ヘテロ二重ラセン複合体の分子構造によって引き起こされる新たな種類の集合体形成である.また,二重ラセン分子の自発的な集合によって規則的な組織を形成し得るので,運動機能性物質構築のために有効な結果である. さらに,エチニルヘリセンオリゴマー四量体ふたつを16炭素リンカーで連結した環状オリゴマーを,鎖状五量体と混合すると,モル比1:2で会合して分子間ヘテロ二重ラセンを形成し,ネマチックおよびコレステリック液晶を形成することを見出した.この結果により,筋肉のような異方性ある運動機能性物質を構築できる可能性を示した.
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