昨年度から引き続き、2010年12月まで、優秀若手研究者海外派遣事業の枠内で、ベルリン・フンボルト大学に研究滞在した。派遣事業の期間内に、文学における記憶の問題を歴史記述と比較するという視点を得たので、それに関する資料をベルリンの図書館で集めながら考察を深めるため、研究指導委託の手続きをとり1月20日から再度ベルリンに滞在し、フンボルト大学で指導を受けた。 本研究は「シベリア・廃墟・水没」のモチーフによって分ける三部構成を計画していたが、今年度は作品の分析が進み、その結果構成を四部構成に変えることに決めた。「廃墟」という論点をやめ、その中で扱ったいくつかの文学のイメージを、「風景の記憶」というカテゴリーで捉え直すことにした。また、新たに、「迷走」のモチーフを手がかりにすることにした。東ドイツ史が終焉を迎え、ひとつの歴史の中に自らを位置づけにくくなった主体の意識を語るモチーフとして〈迷走〉が現れ出ている。このように考えることで、以前手詰まりになっていたD・グリューンバインの作品、そしてそれに関するV・ブラウンやH・ミュラーの作品群の分析が進んだ。四部では、断絶的な歴史の記憶がどのように語られるかをそれぞれのモチーフごとの特徴を手がかりに考察している。今年度は、特に「迷走」のモチーフに即した錯乱した語りのモードの分析が進展した。 2010年11月、フンボルト大学ドイツ文学科のコロキアムで、ドイツの歴史家ラインハルト・コゼレック等の文献が扱われた際、発表を担当した。私は二次文献を紹介したうえで、四つの議題を提示した。物語のモードに関する観点で、自分の研究の問題意識とリンクするテーマであった。
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