研究概要 |
細胞膜上には糖脂質やコレステロールに富んだ「ラフト」と呼ばれる微細領域が存在し,HIV-1感染において重要であると考えられている。これまでの当研究室の実験結果からラフト関連物質が新規HIV-1治療の標的となることが示唆された。本年度はラフトに影響を与える天然物由来の物質や,ラフト特異的に結合するコレラ毒素サブユニットB(CT-B)がHIV-1ベクター感染を抑制するかどうか,またラフトに存在する抗HIV-1細胞因子であるテザリンの感染抑制メカニズムを解析した。 1. GGA,NIK-333,CT-BのHIV-1ベクター感染に及ぼす影響の検証 レチノイド類似体は細胞膜上のセラミドレベルを変化させることによりHIV-1ベクター感染を抑制することが報告されているが,細胞毒性が強く臨床応用には至っていない。我々は細胞毒性がなく天然物由来の非環式レチノイドであるGGAや,それと類似した構造を持つNIK-333がHIV-1ベクター感染を効率よく抑制することを発見した。また,ラフト特異的に存在するガングリオシドGM1に結合するCT-Bも効率よくHIV-1感染を抑制した。これらの因子はHIV-1ベクターと標的細胞間の膜融合を抑制することによりHIV-1ベクター感染を抑制していることがわかった。また顕著な細胞毒性は見られなかったことから,これらの化合物が新規抗HIV-1治療薬の候補となりうることが示唆された。 2. テザリンのHIV-1 cell-to-cell感染に及ぼす影響の検証 HIV-1の感染様式はウイルス粒子によるcell-free感染,及びウイルス産生細胞と標的細胞の直接的な接触におけるcell-to-cell感染の2つが知られているが,生体内では主に後者が主要な感染経路であると考えられている。ラフト特異的に存在し,cell-free感染を抑制するテザリンがcell-to-cell感染も抑制するかどうか検証したところ,テザリンはcell-to-cell感染も効率よく抑制することがわかった。テザリンのHIV-1感染抑制メカニズムを利用したエイズ治療薬の可能性が示唆された。また本実験において,HIV-1 cell-to-cell感染は細胞融合と同時に進行するという,未だ知られていない興味深い特徴を発見した。
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