研究概要 |
窒化物半導体はその優れた物性から、発光・受光デバイスや電子デバイスへの応用が期待されており、すでに青色LEDなど一部のデバイスは実用化に至っている。しかし、次世代デバイスを実現するためには現在よりも高品質な窒化物半導体結晶が必要とされている。高品質な結晶を成長するためには、結晶成長過程を原子・分子レベルで理解し、また制御することが重要であると考えられる。現在、真空下で行われる結晶成長に関する研究は、実験・理論の両面から進められている。一方で、基板結晶やデバイスの作成に用いられる気相成長法における結晶成長過程ではキャリアガスとして用いられる水素が成長過程に関与していると考えられるが、これに関する研究はほとんどなされていない。そこで、水素雰囲気下における気相成長過程を明らかにするために、結晶表面に吸着した水素が1)AINおよびInN(0001)面へのV族原料吸着過程におよぼす影響、2)GaN成長用基板として用いられる3C-SiC(111)面への原料吸着過程におよぼす影響について検討を行った。結果は以下の通りである。 1)NH_3は理想表面上でも再構成面上でもon-topサイトと呼ばれるGaの真上にあたるサイトに吸着し、NH_2は理想表面上ではbridgeサイトに、再構成面上ではon-topサイトに吸着することが分かった。このことから、NH_2の方が結晶表面に吸着した水素の影響を受けやすく、水素により最安定なサイトへの吸着が阻害されると言える。この傾向は、AIN,GaN,InN表面において全て一致している。 2)原料吸着について検討を行った結果、原料分子は表面の水素を避けるように吸着することが分かった。この結果は、水素雰囲気下で3C-SiC上にGaNバッファー層を堆積させても水素終端された領域にはGaNが堆積しないという結果と良く一致しており、今回の解析結果は結晶成長初期過程を良く表していると言える。
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