本研究は、企業経営者による利益マネジメントの中でも、事業活動を通じて利益を調整する実体的裁量行動に焦点を当てている。中でも、(1)一時的な値引販売による売上操作、(2)裁量的な費用の削減、(3)原価低減を図る過剰生産という3タイプの実体的裁量行動を対象としている。当該年度は、(a)経営者交代前後の利益マネジメントについて分析するとともに、(b)実体的裁量行動に関する包括的な論文の作成を行った。(a)について、退任前年度の経営者が上記3タイプの実体的裁量行動によって利益を増加させること、及び当該行動は経営者自身の持株比率が高い場合に抑制されることが示唆された。なお、会計的な裁量行動についても検証を行ったが、同様の傾向は観察されなかった。また、退任経営者の交代タイプを強制的交代と経常的交代に分類し、新任経営者を内部出身者と外部出身者に分けて分析を行ったが、それらのタイプや出身によって差があるという結果は得られなかった。また、(b)について、昨年度と当該年度の研究成果をまとめた。具体的には、わが国企業を対象として、実体的裁量行動の実施状況、経済的帰結、及び要因について分析した結果をまとめ、実体的裁量行動に関する包括的な証拠を提示している。(a)の研究成果を、日本管理会計学会2010年度年次全国大会、経営戦略会計研究委員会10月定例会、及び神戸大学経済経営研究所のRIEBセミナー(TJAR Workshop共催)で報告した。(b)の研究成果は「日本企業の実体的裁量行動に関する実証分析」というタイトルで博士論文とした。なお、昨年度にディスカッション・ペーパー「実体的裁量行動の要因に関する実証分析」としていた研究成果については改訂した結果、日本管理会計学会の学会誌である『管理会計学』に掲載された.
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