本年度は近代オスマン史に関わる既に収集済みの史料、特に定期刊行物や単行本の読み込みを中心的に行ないつつも、その成果を踏まえて新たに収集が必要と思われる新たな史料の調査を行なうべく、二度の海外渡航を行なった。一度目は12月前半、トルコ共和国イスタンブルへの渡航である。この際、予定通りアタテュルク図書館及びイスラーム研究センター図書館でオスマン語・トルコ語史料の調査収集で行なったことに加え、世界総主教座図書室での調査も可能となった。ここでは従来ほとんどオスマン史研究に利用されることのなかったギリシア語刊行史料の収集を行なうことができた。これは今後の新たな研究領域を拓く上でも極めて重要な史料群であり、このたびの渡航の最大の成果であるとすら言える。二度目は2月末から3月初めにかけ、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ケンブリッジに所在するハーヴァード大学、特にワイドナー図書館において他の場所では閲覧が困難なギリシア語史料を中心とした調査研究を行なった。今年度に行なった以上二度の海外渡航の際の収集史料を元にすることで、これまでオスマン史家にはほとんど利用されていないギリシア語史料を用いた新たなオスマン史研究の開拓が可能となると考えている。以上に加え、8月には関西学院大学に出張し、「ロシア帝国支配地域における民族知識人形成と大学網の発展に関する研究」第3回研究会に参加した。また今年度は一本の書評を発表した。これは日本の代表的な近代トルコ史家の著作を英文で紹介したものであり、日本のトルコ史研究の蓄積、その成果を広く対外的に示す点で少なからぬ意味を持っていると考えている。
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