研究概要 |
本研究課題の最終年度にあたる本年度は,昨年度構築した理論をラット海馬CA1錐体細胞から測定された生理実験データに適用し,海馬CA1錐体細胞が符号化した入力空間(特徴空間)を明らかにした.具体的には,ラット海馬CA1錐体細胞の位相応答曲線を推定し,構築した数理理論を用いて位相応答曲線から海馬CA1錐体細胞のSpike Triggered Covariance (STC)を求め,その固有値解析を行った.昨年度は予備実験から得られた位相応答曲線を使って神経細胞の特徴空間を同定していたが,本年度は任意周期外力に対する摂動応答を予測することができる位相応答曲線を用いて神経細胞が符号化した入力空間を求めた.これにより,海馬CA1錐体細胞の特徴空間をより信頼性高く導出することができた.通常,STCを同定するためには10の8乗以上のスパイクを観測する必要がある.これは生理実験で観測できるスパイク数を遥かに超えており,STCを実験により直接求めることはできないことを意味している.本研究により,従来手法では同定できなかった周期発火状態にある神経細胞のSTCを位相応答曲線から求めることができ,その結果として神経細胞の特徴空間を同定することが可能となった.これらの成果はNineteenth Annual Computational Neuroscience Meeting (CNS2010), Neuro2010で発表した.また,これらの基礎研究となる成果を統計数理研究所で行われた「神経科学と統計科学の対話」で発表した.
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