今年度は、前年度に引き続き、(1)デイヴィッド・ヒュームの因果論と(2)現代因果論におけるヒューム主義を主な課題として研究し、その成果を口頭や論文の形で発表した。 (1)第一に、ヒュームの因果論に関しては、自然法則に関する見解について研究報告を行った。これについては、『人間知性研究』を主なテクストとして用い、(a)従来の解釈ではヒューム哲学が自然法則と偶然的一般化を区別できないという困難に直面することになるという点を指摘した上で、(b)自然法則の信念成立において数学的表現による数量化という手続きが不可欠であるという「数量化可能性の条件」という論点をテクストから析出することで、そうした困難の解消を試みた。 (2)第二に、現代因果論におけるヒューム主義に関しては、(1)行為の道徳的評価における因果性の役割、(2)共同行為における因果性の役割に分けて研究報告を行った。 まず、行為の道徳的評価における因果性の役割については、(a)行為の善悪を評価する原理の一つである二重結果原理の内実を明らかにした上で、(b)その原理において因果性が果たす役割の重要性を示したのちに、(c)その原理は傍観者視点での概念的直観ではなく当事者視点での経験的直観によって根拠づけられるということを示した。 次に、共同行為における因果性の役割については、この論文では、(a)共同行為の定義や成立条件に関する黒田亘の見解を検討したのち、(b)黒田の議論が、合理性、暗黙の相互期待、意志表明の言語ゲームにおける<原因としての意志>の共有、という共同行為成立のための三条件を提示するものであった、ということを明らかにした。
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