研究概要 |
特別研究員として採用された平成二一年四月から、特別研究員を辞退した同年八月までの五ヶ月間に、下記二点の研究成果をあけた。 (1)共和党多数であった一九九五年から二〇〇六年までの米国連邦議会下院二大政党においては、政党のイデオロギー的分極化が進み、政党指導部による党議拘束の強化が図られたとされてきた。このような中、五つのイデオロギー的議員連盟(民主党プログレッシブ・コーカス、ニュー・デモクラット・コアリション、ブルードッグ・コアリション、共和党チューズデー・グループ、リパブリカン・スタディー・コミッティー)が、次の役割を果たしていたことが本研究から明らかになった。まず政党指導部選出過程においては、共和党穏健派が党内古参の保守派下院議長を支持し、共和党保守派内での世代間の対立が存在した。民主党内では、指導部支持基盤がリベラル派と保守派に別れていた。また本会議投票では、環境保護政策、均衡財政法案、対中国貿易自由化法案に関して、二大政党の内部は分裂していた。さらに下院農業委員会においてブルードッグ・コアリション所属議員の占める割合が高く、また司法委員会ではプログレッシブ・コーカスとリパブリカン・スタディー・コミッティー議員が多く所属し、同委員会においてイデオロギー的対立が生じやすい構成となっていた。以上の内容を、論文として公表した(「11.研究発表」の第一項参照)。 (2)Sean Theriault,Party Polarization in Congress.(Cambridge University Press,2008)の書評を執筆した(「11.研究発表」の第二項参照)。同書は、一九七三年以降およそ三十年間にわたり議会二大政党が分極化した理由を、本会議投票における審議手続き投票の増加に求める。同書の貢献は、審議手続き投票の増加を可視化し、その増加の論理を明らかにした点にある。また同書に対する批判として、同書が法案の実質の内容を考慮しない点が挙げられる。イデオロギー的議員連盟を通じた議会政治分析は、同書の弱点を補完しうるものと考えられる。
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