近年、核DNAだけでなくミトコンドリアDNA(mtDNA)においても各種癌で変異が高頻度に生じていると報告された(Brandon et al. Oncogene 2006. 25 p4647)。当研究室ではmtDNA変異を持つ細胞はアポトーシスが抑制され発癌を促進することを明らかにしている(Shidara et al. Cancer Res 2005. 65 p1655)。一方、抗癌剤よる細胞死はほとんどがアポトーシスによるものであることから、mtDNAの変異が癌細胞の抗癌剤感受性に及ぼす影響と抗癌剤耐性獲のメカニズムに関して本研究ではin vitro抗癌剤耐性モデル細胞を作製し、検討を行った。 実験に用いられる培養細胞のほとんどは癌化しており、mtDNAに変異がある可能性が高い。そこで正常mtDNAを導入したサイブリド細胞を作製した。この細胞をシスプラチンに長期曝露することにより耐性株を分離し、mtDNA塩基配列を解析した。その結果、得られた耐性株にはmtDNAに変異が認められた。耐性株を脱核しmtDNAを持たないrho-zero細胞と再び融合しサイブリドを作製したところ、やはりこのサイブリドは抗癌剤耐性を示した。したがって、このmtDNA変異が抗癌剤耐性の直接の原因であることが判明した。この細胞を解析することで、ミトコンドリアDNA抗癌剤耐性のメカニズムを明らかにする予定である。 また、一方でヒト大腸癌由来株化培養細胞のmtDNA塩基配列を解析した。幾つかの新規変異を含む多くのmtDNA変異を見出した。この中にはミトコンドリア呼吸鎖タンパク質の非常に保存度の高いアミノ酸残基を置換する変異も存在し、この変異が抗癌剤耐性においても重要な役割を果たしていると考えられた。
|