前年度に実施したコーパス調査で得られたデータを詳細に分析しなおした結果、「国務長官を変えた大統領」のような主語関係節と「大統領が変えた国務長官」のような目的語関係節の場合、主語関係節のほうが数が多いことが分かった。「改革を訴えた大統領」のように、目的語位置に無生物を取る主語関係節と「大統領が訴えた改革」のような目的語関係節の場合、目的語関係節のほうが多いことが分かった。 そこで、自己ペース読文課題を用いた実験を行い、有生名詞のみを取る主語・目的語関係節、目的語に無生名詞をとる主語・目的語関係節の読み時間を計測した。その結果、有生名詞をとる関係節ではこれまで通り、主語関係節が容易に処理できることが確認され、一方で無生名詞をとる関係節の場合は、これまでとは逆に目的語関係節の処理が容易になることが明らかになった。 頻度の影響が見られないと結論づけた前年度の実験とは異なり、今年度の実験は有生性を詳細に考慮しており、その結果、コーパス上の分布と処理の傾向が一致することが明らかになった。これは人間の持つ文処理機構が文に含まれる多様な情報(有生性や統語構造、語の頻度など)に極めて敏感であることを示しており、Gennari & MacDonald (2009)が提案するPDCアプローチ、及びHale(2003)のEntropy Reduction Modelを支持する結果であった。
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