当研究では、ナディームと呼ばれる宮廷文人達を取り上げ、彼らの宮廷内部の活動を分析することで、アッバース朝宮廷の当時の在り方を明らかにすることを目的としている。今年度は、ナディーム達が活躍する場となった宮廷の酒宴を巡って、当時の法学者や文筆家達がそれぞれの立場を表明した写本類を、シリア・アラブ共和国のザーヒリーエ図書館にて調査した。ナディームとはもともと「飲み仲間」を意味するアラビア語であり、君主の酒宴に侍った詩人や歌手、道化などを指した。しかしアッバース朝宮廷で酒宴が慣例化すると、有力官僚などのカリフの側近達も酒宴に侍るようになり、「ナディーム」とはカリフの公私に亘る側近を意味するようになった。しかし飲酒はイスラームでは明確に禁止されている宗教的タブーである。その為、法学者や著名な文筆家達は、飲酒の合法化理論を宮廷に提出し、一方で禁酒の勧めを執筆した御用学者も存在した。これらの議論が提出された9世紀は、市井ではハンバル派の影響力増大により、飲酒を忌避する傾向が強まる一方で、宮廷では酒宴が慣例化し密室化していった時期である。宮廷の酒宴を巡る一連の議論は、当時の社会と宮廷との関わりを表す史料であり、平成23年度中に雑誌論文として投稿する予定である。また昨年度から続けてきたナディーム研究について、国内外の学会にて発表した。
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