研究の目的は、社会的選好の資源配分に与える理論的影響を考察することである。資源配分の制度として、全ての取引に貨幣を用いる全面的貨幣経済制度を対象とする。 全面的貨幣経済制度における資源配分を分析するためには、価格の決定ならびに資源配分を媒介する貨幣流通の論理を把握する必要がある。しかし、これまで全面的貨幣経済制度の分析は十分にされてこなかった。先行研究において貨幣を取り込む試みとしては、・リアルビジネスサイクルモデル、・重複世代経済モデル、そして・サーチモデル、におけるものがある。ただし、前二者に関しては少数のタイプの経済主体間における貨幣流通の表現に関して可能性はあるものの、多様な経済主体間における貨幣流通の表現には大きな限界がある。サーチモデルに関しては、.多様な経済主体間の貨幣流通の表現に適するが、貨幣流通は原理的に取引の一部に限定されるため、生産経済における全面的な貨幣流通の分析には不適である。 研究員は、前年度において構築した全面的貨幣経済制度に関する理論的枠組みのミクロ的基礎づけならびに展開を行った。当枠組みは、貨幣流通体系がグラフ理論を用いて表現される。これまでは主体の行動原理を捨象した静学分析にとどまっていたが、本年度においては、家計主体の選好・企業構造を導入することにより枠組みのミクロ的基礎づけを与え、かつ、金融的ショックに対する短期的動学分析を可能とした。本枠組みにおける社会的選好下における動学的分析がこれからの課題である。
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