研究概要 |
本年度は,溶融石英基板上多結晶NbTiN/SiO_2/AlマイクロストリップとNb/AlO_z/Nb接合を用いたミキサの回路最適化を行い,広帯域低雑音化に成功した。本研究はALMA band 10(0.78-0.95THz)の受信機仕様:230Kを満たすことを目標としているが,これまで低雑音特性を維持したまま広帯域化することに難があった。帯域特性に最も重要な因子とされるSIS接合の臨界電流密度J_cは15kA/cm^2以上が必要であると考えられてきたが,現在の作製技術では接合品質を保ちながらJ_cを高くすることは困難であったことに因る。本研究では接合品質を高く保つことのできるJ_c:10kA/cm^2を採用し,回路設計の観点から広帯域化を図った。まず,共振回路対するミキサ利得と雑音の信号源インピーダンスZ_sの依存性を解析した。この結果,Z_sをSIS接合の常伝導抵抗R_Nの約1/2に設計すれば低雑音特性を維持したまま広帯域化が可能であることがわかった。これを実験的に確認するためにZ_s孫の異なる3つのミキサ(15Ω,9Ω,6Ω)を設計し,それらの雑音と利得の帯域特性を調べた。得られた接合はJ_c:8kA/cm^2,R_N:15Ωであった。このうちZ_s:6Ωを持っミキサが最も広帯域低雑音特性を示し,理論値との良い一致を示した。このミキサの2Kにおける雑音特性を評価し,0.88THz付近で光学系の損失を除いた受信機雑音温度は120K(量子雑音の3倍)以下を示した。また,0.78-0.95THzにわたって200K以下という広帯域低雑音特性を実証した。さらに,このミキサをALMA型受信機に搭載した性能はBand10の受信機仕様を満たすものであった.これらの成果を博士論文としてまとめ、大阪府立大学の理学博士を平成22年3月末で取得することになった。
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