研究概要 |
高度かつ多種多様な生化学分析,医療診断をマイクロ統合分析システム(μ-TAS)によって高スループット化・低コスト化する研究が盛んである.μ-TASは微小流路・ポンプ・ミキサー・バルブといった流体部品とセンサから構成される微小な分析装置であるが,集積されるセンサに要求される性能はラベルフリー・簡易・小型・高性能・高機能と多項目である.これらすべての要求を満たしうるセンサはこれまで実証されておらず,実用化が思うように進んでいないのが現状である.そこで本研究ではこれまで簡易・超小型・高感度・高分解能を満たすナノスロットナノレーザ(以下NSナノレーザ)によるラベルフリーバイオセンシング技術を研究してきた.特に医療診断応用に向けては不純物を多量に含む血中にある極微量の病原マーカを選択的かつ高感度に検出するための抗体センサの開発が急務となっている.たとえば,腫瘍マーカーの場合,pg/mlの感度と10億倍以上の選択比が必要とされる.この2つの機能を両立する医療診断用バイオセンサに関して次の4項目の研究を進めた. i. NSナノレーザによる超高感度タンパク質センシングの原理検証と利用法の提案 ii. NSナノレーザアレイによる統計処理と検出精度向上 iii. NSナノレーザによる抗原・抗体反応の超高感度検出 iv. NSナノレーザによる不純物混合下における抗原・抗体反応の超高選択比検出 iに関しては,極低濃度タンパク質溶液中でのナノレーザのリアルタイム応答を測定し,理論式とフィッティングすることでやはり通常の化学吸着では説明できない親和定数をもつ吸着反応によって波長シフトが生じていることが観測された.理論的検証とさらなる実験的検証を進めることで,NS内部に生ずる光勾配力によってタンパク質の吸着が促進されていることが示唆された.iiについては,NsナノレーザのNS幅の異なるナノレーザをアレイ集積化し,統計評価することで100fMから100μMの極めて広い濃度範囲に対してタンパク質濃度が定量できることを実証した.iiiについては抗原・抗体反応のモデルとしてビオチン・ストレプトアビジンの特異吸着反応を100zM未満の極めて低濃度での検出を実証した.現在本成果の原理を検証している最中である.ivはNSナノレーザをポリエチレングリコールの膜で覆い,さらに界面活性剤を用いて不純物の非特異吸着を抑制した.さらにiiの統計評価を実施することで1μMの牛血清アルブミン混合下における1aMのストレプトアビジンの検出(選択比1兆倍)を実証した. 上記の研究成果に関して,招待論文1件を含む2件の論文発表,国際会議で1件のポスター発表,国内会議で3件発表した.
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