研究概要 |
脳は自己免疫血栓性疾患である抗リン脂質抗体(APS)の重要な罹患臓器である。通常の動脈硬化性疾患と比べると、APSでは心筋梗塞に比べて脳梗塞が圧倒的に多い。APSの血栓形成機序は、APS患者に存在する抗リン脂質自己抗体が内皮細胞や単球を活性化して向血栓状態にすることと考えられている。本研究では、血管内皮細胞の臓器特異性について注目し、APSにおける脳梗塞の血栓形成機序を解明することによって同疾患の特異的治療法を開発すおること目的とした。本年は材料に、ヒトの脳、肺、皮膚の小血管内皮細胞を用いた。これらの培養細胞に抗リン脂質抗体(ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体:231D)を加えてインキュベートし、細胞からRNAを抽出してDNAアレイを用いてmRNA発現スクリーニングをおこなった。有意に発現が増加した遺伝子は、PLSCR4,Cenpk,Bhlhb5,Hmgn1,MAF,TNF,TRAF2,NOS3,RPs6ka6,IL-6、VCAM-1などがあった。しかし、これらの遺伝子発現に内皮細胞間の明らかな差はなく、脳由来微小血管内皮細胞に特異的な遺伝子発現上昇はみられなかった。 検討した遺伝子発現のうち、抗プロトロンビン抗体によってもっとも有意に増強したのはNOS3(nitric oxide synthase 3)であった。NOS3の発現亢進は、患者由来のポリクローナル抗リン脂質抗体でも確認された。NOS3の遺伝子多型はアルツハイマー病や動脈硬化疾患と関連しており、脳血管障害の病態にNOS3がかかわる可能性がある。今回は抗リン脂質抗体によって誘導される脳血管内皮に特異的な分子は同定できなかったが、NOS3の活性をさらに検討することにより抗リン脂質抗体症候群に伴う脳血管障害のメカニズムを解明できる可能性を考えた。
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