研究概要 |
血液は一様な流体ではなく,多数の血液細胞が流動する懸濁液である.そのため,血液内の物質輸送を定量化するためには,流動する血液細胞の挙動を解析する必要がある.本研究では,主たる血液細胞である赤血球の流動を解析することで,血液の物質輸送を力学的に定量化することを最終目的とする. 赤血球は核を持たない特殊な細胞であり,その流動特性は赤血球膜と膜内外の流体運動によって決定される.本研究では,超弾性体膜を持つカプセルとして赤血球をモデル化し,有限要素法と境界要素法を用いて流体構造連成解析を行う. 当該年度では,開発した赤血球モデルを用いて,せん断流れ場における赤血球の運動や,赤血球膜面応力の解析を行った.さらに,赤血球の二体干渉を解析することにより,準希薄懸濁液下でのレオロジー特性や,赤血球自己拡散について解析を行った. あるせん断速度下において,ランダム配向された赤血球が,特定の向きに収束する様子が確認された.配向が収束することにより,周期的な運動から定常的な運動へと遷移することが分かった.これらの現象は,過去の実験結果と矛盾することはなく,赤血球の運動メカニズム解明に向けた重要な知見になる.続いて,赤血球の膜面主応力や膜面圧力を解析することで,膜面応力とせん断速度の関係を明らかにした.膜面応力は,溶血や赤血球のメカノトランスダクションを議論する際に重要な物理量である. 懸濁液内の物理を記述するには,赤血球同士の流体力学的干渉を考慮する必要がある.準希薄懸濁液下では,赤血球の二体干渉が支配的になることから,二体干渉を解析することで準希薄懸濁液特性の解析を行った.せん断粘性が赤血球体積率に対して2次関数的に増加すること,流れ場によって赤血球は非等方的に拡散することが分かった.これらの結果は,複雑な懸濁液の力学を理解するため重要な基礎知見となる.
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