本研究は、政治・経済の深刻な危機的状況下にあるジンバブエにおいて、都市生活者の視点からフィールド調査をおこない、ハイパーインフレーションをはじめとする窮状の渦中に生きる人びとに関する民族誌的考察と人類学的理解を目指すものである。危機的状況下において生成する社会構造と秩序の解明に焦点をおき、フィールド調査および文献調査をおこない、これまでの研究結果と相互に関連づけて民族誌へと発展させる。 現地調査では、ジンバブエの首都ハラレにおいて、物価(外貨経済)の妥当性、モノや貨幣の交換によって形成される社会構造に関し、参与観察および聞き取り調査をおこなった。また、南アフリカにおいてジンバブエ人ディアスポラたちの経験と語りについても調査した。文献調査では、ジンバブエ・クライシスについて書かれた政治学、経済学、人類学などの論文を購読し、ジンバブエがどのような考察対象として捉えられてきたのか、枠組みの整理を試みた。また、きわめて状況が特殊だった2008年の状況について知るため、最新のデータを盛り込んだ論文や報告の収集に努めた。 本研究をとおして、以下のことが明らかになった。(1)ハイパーインフレーション下においては、貨幣や生計をとりまく状況がきわめて特殊だったため、通常(外貨化実施後)と異なる人びとの連帯・協力関係が確認できた。(2)ディアスポラたちの生活は、ジンバブエ人ネットワークに大きく依存している。(3)2008年以前、問題の主要因として挙げられるのは政府の理不尽な介入や失策だったが、2008年のとくに選挙以降には、政府の不在が問題視されるようになった。したがって、2008年の状況やデータの分析には、政府の公式決定以外のインフォーマルな動向に細心の注意を払う必要がある。
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