研究概要 |
私の研究は政治経済学(political economics)と呼ばれる政治学と経済学の学際的分野に属する。主な研究目標は、政党と投票者の間に、政治的情報の非対称性が存在する場合に、政党がどのような公約を掲げるかを明らかにすることであった。現実の選挙では、政党は政策決定において重要な情報を私的調査機関や官僚を通じて得るため、投票者よりも豊富な知識を持つ傾向がある。こうした状況を記述するために不完備情報ゲームを構築し、そのベイジアン均衡を分析をした。 論文Kazuya Kikuchi (2010), "Downsian political competition with asymmetric information : possibility of policy divergence"(ジャーナルに投稿済み)では、政党が完備情報を持つ一方、投票者は不完備情報を持つ状況を分析した。別の論文Kazuya Kikuchi (2011), "Privately informed parties and policy divergence," Global COE Hi-Stat Discussion Paper Series 160では、Kikuchi(2010)のモデルを、政党は完備情報を持たず、状態変数に関する私的シグナルを受け取る状況に拡張した。 いずれのモデルにおいても、政策乖離を伴う均衡、すなわち二政党が異なる政策を公約として選択するベイジアン均衡が存在することが示された。さらに、前者の論文のモデルでは政策乖離を伴う均衡がHarsanyiとSeltenの意味で一様完全であり、後者の論文のモデルではベイジアン均衡自体の個数がある意味で少ないことが示された。これらは、情報非対称性の下での政策乖離を伴う均衡に注目することに、一定の正当性を与えるものと解釈される。
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