研究概要 |
チベット南部やヤールンツァンポー縫合帯周辺に分布する珪質岩の堆積学的・微化石年代学的検討の結果,遠洋性堆積物よりトリアス紀中世から白亜紀古世にいたる放散虫化石を見出した.従来,インドとラサブロックの間の海域(新テチス海)はトリアス紀新世からジュラ紀にかけて形成されたと考えられてきたが,さらに古いトリアス紀中世に,すでに海域が存在していたことが明らかになった.検討岩体のひとつシャルーチャートでは,ジュラ紀中世から白亜紀古世にわたるチャートが見出され,5千万年以上にもおよぶ遠洋域での堆積の証拠が確認された.また,シャルーチャートの付加年代は白亜紀中頃であることが明らかになった.構造地質学的検討からは,チャート中に横ずれ運動を示す変形構造がみられ,その一部はインド大陸が衝突する以前の付加体形成時期の変形を表現していると考えられる.また,珪質堆積物に付随して産出する火山岩(ドレライト)の産状および岩石学的検討の結果,この火山岩は海洋島の玄武岩に類似することが明らかになった.この玄武岩は,東テチス海の海洋島を形成する火成作用に伴って深海底堆積物に貫入したものである. 珪質堆積物はヤールンツァンポー縫合帯の内部およびその南側の比較的狭い範囲に分布している.しかしそれらは広大な東テチス海の異なる海域の堆積物を代表していると考えられる.今後,放散虫の古生物地理学的検討が進めば,堆積場の相対的位置を議論できるようになると期待される.なお,シャルーチャートのジュラ紀新世の放散虫群集は,日本列島の鳥巣層群などから得られる北半球中緯度の群集に類似している.ジュラ紀新世当時,赤道域を挟んで鏡像関係の放散虫古生物地理区分が想定される.
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