研究概要 |
アメリカの高輝度・中輝度放射光施設である,ALS,SSRL,Alladin,APS,NSLSの1998年8月時点での現状と将来戦略ならびに1999年7月現在のヨーロッパの代表的な第3世代の真空紫外・軟X線放射光リングであるドイツBESSYII,イタリアElettra,スウェーデンMAXIIならびに9月時点での台湾のSRRCの現状と将来計画と21世紀に向けての戦略を調査した。概して欧米の施設では個性ある研究を強力に推進する姿勢があり,これに対してアジアの施設では総花的な計画であるのが特徴的である。特筆すべきはALSやElettraで推進されているマイクロスコピーである。これはイメージングの手法も含めて間違いなく21世紀最大の課題であろう。米国では強相関電子系物性に力を入れているSSRL,AlladinやNSLS,マイクロマシーニングに重点を置こうとしているAlladin,biologyに重点を置こうとしているAPS,表面研究に力点のあるALSなどとの施設も個性を打ち出すのにやっきの感がある。一方ヨーロッパはMAXIIのように高分解能光電子分光に力点を置く施設からBESSYIIのように割と幅広く軟X線分光を推し進めようとする施設まで多様である。台湾新竹(Hshinehu)放射光施設SRRCは1.3GeVから1.5GeVにグレードアップされたリングである。挿入光源が4本しか入らない点は21世紀を直前にしていささか第3世代光源としては物足りない。入射は1.3GeVで行い,蓄積後エネルギーを1.5GeVに上げている。このための時間ロスとラティスの不安定が問題になっている。 他方我が国ではSPring-8の完成によりX線領域での世界最高の光源が利用出来るようになった。さらに本研究グループを中心としてSPring-8に軟X線のビームラインを建設したところ,それまでの世界のレベルをはるかに凌駕する軟X線分光が可能になった。特に研究発表1.にあるように,高エネルギーで高分解能のバルク敏感光電子分光を世界で始めて行う事に成功した。この研究はNatureに発表したが現在世界的反響をよんでおり,これまで諸外国で報告されてきた高分解能光電子分光の常識を塗り替える状況にある。21世紀には高エネルギー高分解能角度分解光電子分光により高温超伝導体を含む多くの物質の真のバルク電子状態がSPring-8において本研究者等の手で続々と解明されると期待される。さらに軟X線の高分解能非弾性散乱も今後有力な研究手法として発展するとともにコヒーレンスを生かした分光研究が盛んになると予想される。
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